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津地方裁判所四日市支部 昭和48年(ワ)72号 判決 1976年7月01日

原告

山路隆三

被告

美冨久酒造株式会社

ほか二名

主文

被告美冨久酒造株式会社(以下被告会社という)および被告小林忠義は各自金二二三万三五六六円およびこれに対する昭和四八年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被告渡辺正博は原告に対して金二〇三万九一六六円およびこれに対する昭和四八年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求をそれぞれ棄却する。

訴訟費用中原告の支出した分の二分の一を被告会社および被告小林忠義の連帯負担とし、原告支出分の二分の一を被告渡辺正博の負担とし、その余の部分は各自の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

(一)  原告

「被告三名は各自原告に対して金四九九万七〇一〇円および内金四一一万一二五八円について昭和四八年六月三〇日から、内金八八万五七五二円について昭和四九年九月一三日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決および仮執行宣言

(二)  被告三名

「被告らに対する原告の請求をいずれも棄却する。」との判決

二  原告の請求原因事実

(一)  原告は次の交通事故(以下本件事故という)により受傷した。

日時 昭和四六年六月一九日午前一〇時二五分ころ

場所 四日市市富田浜町ビーチレストラン前の名四国道路上

加害車 被告渡辺運転の大型貨物自動車(車両番号三一せ・五三二〇)(以下第一車両という)

被告小林運転の小型貨物自動車(車両番号滋四む・五二六五)(以下第二車両という)

被害車 原告同乗の訴外中島正吉運転普通乗用車(車両番号三ふ五・七一八三)

(二)  被告小林は、第二車両を運転し名四国道の中央寄り車線(所謂追越車線)を走行して本件事故現場にさしかかつたのであるが、一般車線前方の被害車が追越のため中央寄りの追越車線に出ようとして再び一般車線に戻つたことに立腹し、被害車を追越して一般車線に入り込み、被害車の直前でジグザグ運転をしたうえ、運転者として急停車する場合は、後続の自動車との距離を勘案してその安全を確認してなすべき義務があるのにこれを怠り、急制動の措置を取つた過失により、衝突を避けようとした被害車に急停車の止むなきに至らしめ、これにより、被害車に後続していた第一車両をして被害車に追突せしめたものである。

(三)  被告渡辺は、第一車両を運転して被害車に追従して本件事故地点に至つたが、運転者として常に前方を注視し先行車の動向を確認して危険の発生を防止すべきであるのに、漫然運転していた過失により、前記のとおりの被害車の急停車に対応できず、第一車両を被害車に追突せしめた。

(四)  被告会社は第二車両を、被告渡辺は第一車両をそれぞれ保有し、運行の用に供していたものである。

(五)  本件事故により、原告は次の損害を蒙つた。

イ  治療費 金五六万一四八〇円

昭和四六年六月一九日から同四八年四月二〇日までの小畑外科病院における分

ロ  治療関連雑費 金六万八二〇〇円

前記小畑病院における昭和四七年三月二七日から同四八年三月三日までの入院期間中の一日につき二〇〇円の三四一日分

ハ  休業補償費 金二二三万六八六九円

原告勤務の東芝電気三重工場における昭和四六年六月二一日から同四八年四月一五日までの休業損害

(賞与減額分を含む)

ニ  受傷慰藉料 金一二〇万円

ホ  後遺症について慰藉料 金二〇万八〇〇〇円

右事故による外傷性頸部症候群の固定後遺症状として頭痛頸部圧迫感、左肩、左背部の疼痛、運動能力低下、神経障害等の後遺障害等級表第一二級相当

ヘ  後遺症による逸失利益 金六一万六八六一円

労働能力喪失率一四パーセントによる五年分

ト  弁護士費用 金三〇万円

以上合計 金五一九万一四一〇円

(六)  被告三者の自賠法第三条但書の免責事由、被告渡辺の同被告に対する請求権の放棄の事実は、いずれも争う。被告渡辺の主張する本件事故の態様中被害車が追越車線に入るに先立つて方向指示器を出さなかつたことや、無謀運転をしたことは争うが、第二車両がその際中央分離帯に衝突しそうになつたこと、第一車両と被害車との距離関係、後続車のあつたことはいずれも知らない。

(七)  本件事故は第一および第二車両による共同不法行為に当るので、第一車両運転かつ保有者である被告渡辺、第二車両保有者である被告会社および第二車両運転者被告小林に対し、本件事故による原告の蒙つた前記損害から第一車両についての自動車損害賠償保障法による保険給付金一九万四四〇〇円差引金四九九万七〇一〇円と内金四一一万一二五八円(訴提起時の請求額)に対する昭和四八年六月三〇日(訴状送達の翌日)から、内金八八万五七五二円(昭和四九年九月一二日付準備書面による請求拡張額)について同四九年九月一三日(右書面送達の翌日)から、各支払済みまで民事法定利率の年五分の割合による遅延利息金の連帯支払を求める。

三  被告会社および被告小林の答弁

(一)  原告の請求原因(一)の交通事故の発生、同(四)の被告会社が第二車両を保有し運行に供していたことは認めるが、第二車両は本件事故の加害車ではない。

(二)  本件事故の加害車は第一車両であるが、仮に第二車両が加害車に当るとしても本件事故は第一車両の運転手である被告渡辺の過失に起因するもので、第二車両の運転者被告小林には何等の過失もない。被告小林は被害車の直前でじくざく運転をしたり、急停車した事実はなく、それ故に被害車は第二車両と接触せずに停車し得たのであつて被害車が停止して二、三秒たつてからの第一車両の被害車との追突については、第二車両の関知するところでない。そもそも本件事故は、事故当時は軽微な物損事故程度で処理されていたのが、昭和四七年一〇月になつて被告会社からの照会により判明するに至つているもので、従つて被告小林についての刑事上の責任は全く不問に付せられていたのである。

(三)  仮に第二車両に事故責任があるとしても、原告主張の損害はいずれも争う。原告の加療日数はせいぜい一〇五日程度であつて、牽引療法を施しているとは認められず、それが変形機械矯正を意味するとすれば二六九回(一回二三〇円)に過ぎず、斜面牽引法とすれば一回施されているに過ぎない。その上原告は、余りにも多くの皮下筋肉注射、内服薬を投与させており、果ては後頭部の切開手術まで受けているが、こうした治療は全く過剰医療に当り、適正かつ必要な治療をこえた医療費について被告らが賠償責任を負う理由はない。そして原告の後遺障害としての鞭打ち症状は、大企業の職場のもたらしたストレスあるいは精神的緊張による心因性のものというべきで、その程度において自賠法上の障害等級一四級と目される。

(四)  更に本件事故については、被告渡辺との共同不法行為性が認められたとしても、被告会社ならびに被告小林は、その過失割合、換言すれば関与の度合に応じた損害についてのみ被告渡辺との連帯責任を負うものと解するのが相当である。関与の度合いに拘らず全体の損害について賠償義務を肯定することは不合理であり、却つて不公正を招き加担度合いの少ない加害者にとつて酷に失するというべきである。

四  被告渡辺の答弁

(一)  原告の請求原因(一)の事実、同(四)の被告渡辺が第一車両を保有して運行に供していたこと、は認めるが、同(三)の被告渡辺の過失、同(五)の原告の蒙つた損失はすべて争う。

(二)  本件事故については被告渡辺は無過失であり、同事故は被害小林、被害車両運転手訴外中嶋正吉、その同乗者原告の過失に起因し、第一車両の構造機能上の欠陥もなかつたから被告渡辺にとつて不可抗力的に起つたものである。即ち、本件事故地点は、南北に走る幅員一四メートルで中央分離帯があり、片側に第一および第二通行帯のある、通行量の極めて多い名四国道上にあり、被告渡辺は、右道路の第一通行帯、所謂普通車線を被害車(訴外中嶋運転、原告同乗)に約二〇メートル離れて北進していたのであるが、本件事故地点手前約六〇メートルの辺りで被害車は前車を追越すべく、方向指示器も出さずに第二通行帯、所謂追越車線に進出し、折柄同所の追越車線を走つていた第二車両と衝突しそうになり、慌てて普通車線に戻つたが、第二車両の被告小林は衝突を免れるため、急ブレーキをかけて右転把し、危うく中央分離帯に乗り上げそうになりつつ衝突を避けたことに立腹して被害車をたしなめるべく自車の後部を左右に振つてジグザグ運転をしながら追越車線から普通車線の被害車の前に割り込み、いきなり急制動をかけたところ、被害車は前述の経緯から第二車両の動向に注視していたため同車の停止に即して急停車し得たが、被告渡辺の第一車両は大型ダンプであつて不意をつかれた恰好になり、約九メートル進行して被害車に追突せざるを得なかつたのであり、本件事故は、被害車の無謀な追越車線への進入行動、これに誘発された第二車両のジグザグ運転および急停車が原因のすべてであつて、被告渡辺にとつては不可抗力的なものであり、責任はない。

(三)  仮に被告渡辺に本件事故による賠償責任が肯定されるとしても、原告は事故直後、本件事故の経緯から被告渡辺に対して賠償を求めないことを約しているから、被告渡辺に責任はない。このことは後日被告渡辺が原告を見舞つた際にも原告がその旨を明言し、更にその後第一車両の自賠保険を使わせて欲しいと依頼するとともにその余については一切請求しないことを明らかにし、更に被害車自体の損害賠償について被告小林がこれをなしていることから明らかである。

五  証拠〔略〕

理由

一  原告の請求原因(一)の交通事故の発生は、当事者間に争いなく、第一車両を被告渡辺が、第二車両を被告会社が保有していることは、それぞれの各被告の認めるところであるが、被告会社および被告小林は、右事故は被告会社保有の第二車両によるものでないから、同車は自賠法第三条の加害車に当らないと主張し、原告も原告の受傷は、直接には第一車両の被害車への追突によるものであることを認めながら、第一車両の原告同乗の被害車に対する追突は、第二車両のジグザグ運転ならびに被害車直前における急停車がその原因であるから第二車両も同法上の加害車に当ると主張する。よつて右事故の態様につき按ずるに、成立に争いのない乙イ第一の六ないし八、一一ないし一三、一五、一八、二〇ないし二三、二六ないし三一の各号証、証人中嶋の証言、被告小林、同渡辺ならびに原告(二回)の各本人尋問の結果によると、訴外中嶋は、助手席に原告を同乗させて被害車を運転し、通行量の頻繁な名四国道(総幅員約二〇メートル)の北進第一通行帯(幅員三・八メートル)、所謂普通車線を時速約六〇キロメートルで北進し、本件事故地点の手前約一五〇メートル附近で前行車を追越すべく北進第二通行帯(幅員三・二メートル)、所謂追越車線に入ろうとしたところ、たまたま追越車線を進行していた第二車両の直前一〇メートル程の所に当つたため、第二車両を運転していた被告小林は、咄嗟に急ブレーキをかけつつハンドルを右に切つて被害車との衝突をかわしたものの、同国道の中央分離帯に乗上げかねない危険に遭遇したことに憤慨し、その後再び第一通行帯に戻つていた被害車の横を通り抜けるに当つて次第に自車を被害車に寄せつつ被害車を追越し、第一通行帯を被害車に約一五メートルの距離をおいて先行して少なくとも五〇メートル以上走つた地点で突如として急停車の措置を執つたこと、訴外中嶋は、前記の経緯があつて先行の第二車両の運行に注意したため、同車の急停車に応じて直ちに自車も急制動をかけ、第二車両との間僅か三〇センチメートルを残す位置で辛うじて停止し得て 第二車両との追突を免れたものの、その一、二秒後に被害車に約一〇メートル遅れて後続していた第一車両によつて 同車の急停車の措置も及ばず、激しく追突され、その衝撃から更に自車を約三〇センチメートル前方に移動させられて前に停止していた第二車両に軽く接触せしめていること、の各事実を認めることができる。右事実に照らして考えるに、成程原告を受傷せしめたのは後続の第一車両の被害車への追突であると謂うべきであるが、本件のような名四国道といつた車両の流れが殆んど絶えることのなく往復四車線になつているような道路にあつては連続する車相互間において前後車の車間が常に前車の急激な停車に対応し得る程度に空けられていないのは通常の状態であつたところに、たまたま被害車を追い抜きざま同車の前で急停車の措置をとつた第二車両に対する追突を免れるために被害車は緊急措置として急停車の措置をとり、次いで、連鎖的に後続の第一車両が被害車に追突するといつた事態が発生したのであつて、前記の道路および交通事情の下にあつては、第二車両の運行態様は、第一車両の被害車に対する追突について相当の困果関係があると謂わざるを得ず、右第二車両の運行も自賠法第三条にいう車両の運行によつて他人に損害を与えた場合に含まれると解するのが相当である。

二  ところで被告会社、被告小林および被告渡辺は、右事故についてそれぞれ被告小林 被告渡辺は無過失であり、自賠法第三条但書の免責事由がある旨主張するが、被告小林について見るに、たとえその動機が前記認定のように訴外中嶋の被害車の乱暴な運転に立腹したものであるにせよ、さりとて本件のような国道においては常々単に直後の後続車のみならず更にその後の後続車両の動向を確かめることなく前車が軽率な運転をすることは、後続各車両に危険を及ぼすことは明らかであつて、この意味で後続車の流れにまで注意を払うことは自動車運転者にとつて当然の義務範囲に属し、この点の安全を確認したとは到底認め難い第二車両の運転車被告小林の無過失の抗弁は 採用し難く、次に被告渡辺について考えるに、自動車運転手としては、前車の急停止の場合にこれに応じて自車を停止せしめるに足る車間距離を常に保ちつつ運転を継続する義務があり、本件のような主要国道にあつては時速約六〇キロメートルの運転速度から考えて一〇メートルの車間距離は不充分であつたと謂わざるを得ないし、交通の実情として必ずしも緊急事態に応じ得る充分な車間距離をとらないことが常態化していること、本件の場合第二車両の所謂幅寄せからの追越によつて被害車の速度が落ちて一時的に同車と第一車両との車間距離が短縮化された直後の事故であると考え得ることの諸点を考慮しても、然もなお約五〇メートル以上進行する間に直ちに制動措置をとり、自動車運転者としての車間保持の注意義務を果すことができなかつた必然性も肯定し得ないから、被告渡辺の無過失の主張も採用し難い。そして原告同乗の被害車側の過失について考えるのに、事故地点約一〇〇メートル以上手前の箇所での被害車の追越車線への進入方法には稍無理があつたと認められ、その意味で被告小林が立腹したことについては、或る程度理解し得るとしても、さりとて被害車の右運転があつたといつて直ちに時間的距離的に或る程度隔つている本件事故が必然的に発生するものでなく、その間の因果関係は全く否定せざるを得ないから本件について原告側の過失を考慮する余地はない。

三  そこで以下本件事故によつて蒙つた原告の損害について判断するに、原告本人(二回)の尋問結果、証人小畑秀世の証言、右尋問結果から成立を認め得る甲第一ないし第四、第五、第六、第七の一ないし六、第八の一ないし四および第一〇の各号証によれば、原告は本件事故により頸部に痛みを訴え、直ちに小畑外科医院で所謂鞭打症としての治療を受け、同年八月一たん通院治療を中断し就業したものの、同年一〇月ごろから頭、頸、背の各部の疼痛が増大して、再度右医院にて神経ブロツク薬物等による各種治療を受けたが、快癒せず、同四七年三月二八日から同四八年三月三日まで同医院に入院してその間両側大後頭神経捻除の手術を受ける傍ら前記各治療を継続し、昭和四八年五月当時において鞭打症特有の頭痛等の症状を残して症状は一応固定していること、原告は右治療のため自らの負担において同医院に対して金五六万一四八〇円の治療費を支払つて右同額の損失および入院三四一日間の雑費として金六万八二〇〇円の損失を蒙り、かつ昭和四六年六月二一日から同四八年四月一五日までの間に右受傷治療のため勤務先の東芝電気株式会社三重工場を五九三日間欠勤し、そのため事故当時の平均賃金(事故前の昭和四五年一二月一日から同四六年五月三一日までの一八二日間の収入金五〇万三五二三円として日給二七六六円)を基準として昭和四八年四月一五日までに金一五六万〇一二六円の賃金相当額ならびに金六七万六三八三円のボーナス(昭和四六年上、同四七年上、同年下の各期)相当額の合計金二二三万六四九四円を失つたこと、の各事実を認めることができる。被告会社および被告小林は、原告の加療が過剰医療に当るから、過剰分については相当の損害に当らないと主張するが、証人小畑秀世の証言に照らしても原告の治療が本来不必要な治療に当るとも、また小畑医院における加療が現代の医学の通例から特にかけ離れたものであるとも、到底解し難く、(受傷者があらゆる手段をつくして全快をはかるのは当然のことであり、手術を含む長期加療が原告の後遺症状を軽くしているといえる)原告の前記各損害は本件事故と相当の因果関係のある損害として加害者において賠償すべき範囲に属すると謂うべきである。そして原告の本件事故による受傷に伴う慰藉料としては、その入院通院の加療期間、一応の症状固定したと認め得る昭和四八年五月初現在における後遺症状を考慮すると、金一五〇万円(後遺障害一四級として一四万円、治療日数相当の傷害につき一三六万円)を相当とし、右後遺症状に照らし原告は症状固定から二年を経過した昭和五〇年四月末日まではその労働能力において五パーセントの減退も止むを得ないと考えられるので、右期間中に金一〇万〇九五九円(二七六六×三六五×二×〇・〇五)を失つたものと見ることができ、以上原告は本件事故により合計金四四六万七一三三円の損害を蒙つているというべきである。

四  ところで被告会社および被告小林は、本件事故についての関与の度合いによつて被告会社および被告小林の二人と被告渡辺の間で賠償義務を分担するのが公平に合すると主張し、当裁判所も本件については右主張を肯定する。蓋し、一般的に肯定されている被害者側の過失割合について過失相殺による賠償義務を滅殺するという方法は、既に公平の見地からする共同不法行為者の賠償範囲の修正であり(共同不法行為の見地に立てば、双方に過失があつた場合でも加害者に不法行為がある以上全体の損害について賠償義務を負うことにならざるを得ないであろう)、本件のごとく第一車両と第二車両の各運転者の注意義務は、それぞれ別箇のものであつてその意味で厳格には、過失という不法行為を共同した場合に当らず、それぞれ別異の不法行為の併存が原告の受傷という同一の結果を招いたに過ぎず、前記本件事故の態様に照らして被害車と第一車両の追突について第一車両は充分な車間距離を取つていなかつた点に、第二車両は事故現場の交通状況を看過して急停車措置をとつた点に、それぞれ本件事故に対して平等の割合で過失があるというべきで、それぞれ五割の寄与度があると解するのが相当である。

五  被告渡辺は、原告が同被告に対する賠償請求権を全部もしくは第一車両上の自動車損害保険給付金をこえる部分を放棄することを同被告に約していると抗弁し、被告渡辺本人尋問の結果中には右保険請求について原告が被告渡辺に依頼したことは認められるものの、未だ被告渡辺を含む加害者に対する損害賠償請求権の処分があつたことについてはこれを認めさせるに足る供述はなく、その余に被告渡辺の右抗弁を認めるに足る証拠もない。

六  そうすると被告会社および被告小林は前記損失の二分の一に当る金二二三万三五六六円および訴追に要するに相当と考え得る金一〇万円の弁護士費用についてのみを同被告らが連帯して賠償すべきであり、被告渡辺は同じく金二二三万三五六六円および金一〇万円の弁護士費用についてのみ賠償すべきであり、右各義務は本件事故時に発生しているというべきであるので、結局原告に対して、被告小林および被告会社は連帯して金二二三万三五六六円とこれに対する事故の後であつて本件訴状の被告渡辺に対する送達日である昭和四八年六月三〇日からの民事法定利率による遅延損害金の支払義務を負うのとは別に、被告渡辺も同じく金二二三万三五六六円とこれに対する事故後であつて同被告に対する訴状送達の翌日である昭和四八年六月三〇日からの民事法定利率による遅延利息金の支払義務を負うことになるが、原告の控除する第一車両の自動車損害賠償保険給付金一九万四四〇〇円は右渡辺の負担部分から差し引くのが相当であるから、結局被告渡辺の未払残額は金二〇三万九一六六円となり、原告の被告らに対する本訴請求は、以上の限度で理由があるので認容し、その余の部分を棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第九三条但書により原告の支出した分の二分の一を被告会社および被告小林の連帯負担、原告支出分の残に当る二分の一を被告渡辺の負担とし、その余の被告らの支出部分はいずれも各自の負担とし、仮執行宣言の必要性は認め難いので同申立を却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 松島和成)

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